相続放棄の手続きは、「家庭裁判所に申し立てれば終わり」と考えてしまいがちですが、実際には見落としやすい落とし穴が数多く存在します。
たとえば、相続の対象に借金が含まれていたり、熟慮期間が過ぎていたりすると、意図せず負債を背負うことにもなりかねません。
こうしたリスクを避けるために、多くの方が弁護士に相談しながら手続きを進めています。
本記事では、相続放棄を弁護士に依頼するか検討する際に押さえておきたい次のポイントについて詳しく解説します。
- 相続放棄を選ぶべきケースと避けた方がよいケースの見極め方
- 弁護士に相談することで得られる4つのメリット
- 弁護士に依頼した場合の手続きの流れと注意点
相続放棄は人生の中で何度も経験するものではなく、多くの方にとって初めての手続きです。
大切な判断を誤らないためにも、事前の知識と適切なサポートが欠かせません。
この記事を通じて、弁護士に依頼するべきかどうかを含め、安心して相続に向き合うための判断材料を得ていただければ幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
相続ナビに相続手続きをお任せください。

スマホ・PCで登録完了
役所などに行く必要なし
相続放棄をするにあたって知っておくべきポイント5つ
相続が発生すると、遺産を「もらうか・放棄するか」の選択が必要になります。
特に借金などマイナスの財産がある場合、「相続放棄」を検討する人も少なくありません。
しかし、相続放棄には厳密な期限やルールがあり、少しの判断ミスで負債を背負ってしまうケースもあります。
また、一度放棄すれば基本的に取り消すことはできず、他の相続人への影響も避けられません。
そうした重要な決断をする前に、最低限知っておくべきポイントを押さえておくことが不可欠です。
1.負債も遺産分割の対象に
相続では、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や未払金といったマイナスの財産もすべて対象になります。
つまり、遺産分割協議を行っても、負債の相続を免れることはできません。
たとえば、相続人の間で「借金は長男が引き継ぐ」という話し合いをしても、債権者にとっては無効であり、他の相続人にも請求が及ぶ可能性があります。
このようなケースに備えるには、相続開始を知った時点から3ヶ月以内に「相続放棄」を選択する必要があります。
負債の有無を確認しないまま遺産分割を進めてしまうと、思わぬトラブルに巻き込まれるリスクがあるため、早めの対応が重要です。
2.相続放棄の熟慮期間は、原則「相続開始を知ってから3ヶ月」
相続放棄を検討する際には、「熟慮期間」と呼ばれる期限に注意が必要です。
法律では、相続人が「相続の開始があったこと」と「自分が相続人であること」を知った時から3ヶ月以内に、相続放棄を家庭裁判所に申し立てなければならないと定められています。
この期間を過ぎると、原則として相続を承認したものとみなされ、借金などの負債も含めて遺産を引き継ぐことになります。
ただし、相続財産の存在に気づかなかったなどの事情によっては、例外的に期間の延長が認められる場合もあります。
期限内に正しい判断を下すためには、早めに情報を整理し、専門家に相談することも検討しましょう。
3.相続放棄が認められない「法定単純承認」に注意
相続放棄を検討していても、特定の行動をとることで自動的に相続を受け入れたとみなされてしまうケースがあります。
これを「法定単純承認」といい、たとえば被相続人の財産を処分したり使ってしまった場合、たとえ放棄の手続きをしていなくても、相続を承認したものと見なされてしまいます。
また、熟慮期間内に相続放棄を申し立てず、3ヶ月を過ぎてしまうことも同様に単純承認とされます。
一度単純承認が成立すると、その後に放棄を申し出ても認められないため注意が必要です。
相続放棄を確実に行うには、財産に手をつける前に慎重に判断し、速やかに手続きを進めることが重要です。
4.原則、相続放棄は撤回できない
相続放棄は一度手続きを完了すると、原則として撤回することはできません。
たとえ後になって「プラスの財産のほうが多かった」と判明しても、放棄の効力は基本的に取り消せないため、慎重な判断が求められます。
例外的に、他人の詐欺や強迫によって放棄させられた場合などは、家庭裁判所に申し立てて取り消しが認められることもありますが、非常に限定的です。
相続放棄は重大な法的効果を伴う決断であるため、借金の有無だけでなく、相続財産全体の状況をよく確認し、必要であれば弁護士など専門家に相談してから進めるのが安心です。
軽率な判断は大きな後悔につながりかねません。
5.相続放棄をするとほかの相続人に遺産相続の権利が移る
相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとみなされます。
すると、放棄した人の順位に応じて、他の相続人に相続の権利が移る仕組みになっています。
たとえば、長男が相続放棄をした場合には、次男や他の兄弟姉妹、場合によっては甥や姪などに権利が移ることがあります。
注意すべきは、他の相続人が放棄した結果、債務を引き継ぐことになる可能性がある点です。
相続放棄が連鎖的に起きると、思わぬ人が相続人になることもあるため、親族間で事前に話し合いをしておくことが重要です。
相続放棄は自身だけでなく、周囲への影響も大きい選択だと理解しておきましょう。
相続放棄弁護士は必要?
相続放棄には期限や厳格なルールがあり、手続きの不備や判断ミスによって希望どおりに進まないこともあります。
そもそも自分が放棄すべき状況なのか、放棄しない方がよいのか迷う方も多いでしょう。
そうしたときに頼れる存在が弁護士です。
相続放棄における弁護士の必要性について、放棄すべきケース・避けた方がよいケース・認められないケースを交えて解説します。失敗しない判断のために、ぜひ参考にしてください。
相続放棄を選択すべきケース
相続放棄を検討すべき代表的なケースは、被相続人に多額の借金や未払いの税金など、マイナスの財産が多い場合です。
プラスの遺産よりも負債が上回ると、相続することで大きな負担を抱える可能性があります。
また、生前ほとんど関わりのなかった親族から突然相続が発生し、財産状況が不明なときも、慎重な判断が求められます。
さらに、家庭内のトラブルや他の相続人との関係悪化を避けたいという理由から放棄を選ぶ人もいます。
相続は感情的な問題も絡むため、状況を冷静に見極め、必要に応じて専門家に相談することが、トラブル回避につながります。
相続放棄を選択しない方がよいケース
相続放棄は有効な手段ですが、状況によっては選ばない方が良い場合もあります。
借金があると思い込んで放棄した後に、実は価値のある不動産や預貯金があったと判明しても、原則として撤回はできません。
また、被相続人が保証人になっていたケースでは、保証債務の有無が明確でないまま放棄すると、必要以上に権利を手放すことになりかねません。
さらに、自分が放棄することで、他の家族に不利な相続が回ってしまう可能性もあります。
相続の内容が複雑なときは、軽率に放棄を選ばず、まずは専門家に相談して全体像を把握することが重要です。
相続放棄が認められないケース
相続放棄は、家庭裁判所に申し立てれば必ず認められるわけではありません。
たとえば、法定単純承認に該当する行為、つまり遺産を処分したり、相続財産に手をつけたりした場合には、放棄の意思があっても原則として認められません。
また、熟慮期間である「相続開始を知った日から3ヶ月以内」に申し立てをしなかった場合も、放棄は無効となります。
さらに、相続放棄は形式面でも厳格なルールがあるため、書類の不備や申述内容に矛盾があると判断された場合にも却下される可能性があります。
相続放棄の手続きを弁護士に依頼するメリット
相続放棄を考える場面では、ただ「家庭裁判所に申立てをすればいい」と思っている方も少なくありません。
しかし実際には、提出書類の不備や期限の見落とし、他の相続人との関係性、さらには債権者からの請求対応など、想像以上に複雑な問題が発生する可能性があります。
判断を誤れば、知らぬ間に借金を背負うことにもなりかねません。
そんな時に頼りになるのが、法律の専門家である弁護士の存在です。
ここでは、相続放棄を弁護士に依頼することで得られる具体的なメリットを4つの観点からご紹介します。
1.手間をかけず正確に、期限内に手続きを進められる
相続放棄の手続きには、家庭裁判所への申述書作成や必要書類の収集、提出期限の管理など、煩雑な作業が伴います。
特に「相続開始を知ってから3ヶ月以内」という期限は厳格に定められており、少しの遅れでも放棄が認められなくなるリスクがあります。
弁護士に依頼すれば、必要な書類の確認から申立ての進行管理までを一括して任せられるため、手間を大きく減らせるのが大きなメリットです。
また、専門知識を持つ弁護士が関与することで、申請ミスや不備による却下を防ぎ、スムーズかつ正確に手続きを進めることが可能になります。
忙しい方や手続きに不安がある方にとって、非常に心強いサポートとなるでしょう。
2.ほかの相続人とのトラブルを回避できる
相続放棄は法的手続きである一方、家族や親族との関係に影響を与えるデリケートな問題でもあります。
たとえば、遺産分割の話し合いの途中で一方的に放棄を伝えたことで、他の相続人との間に不信感や誤解が生まれることがあります。
こうした感情的な対立を避けるためにも、弁護士を通じて手続きを進めることは有効です。
弁護士が第三者として間に入ることで、専門的かつ中立的な立場から状況を説明し、円滑な対応が可能になります。
また、複数の相続人が関わる複雑なケースでも、法律に基づいたアドバイスが得られるため、余計なトラブルを未然に防ぐことができます。
3.債権者への対応も委ねられる
被相続人に借金や未払い金がある場合、相続人に対して債権者から直接連絡が入ることがあります。
特に相続放棄を検討している段階では、「支払うべきかどうか」「放棄手続き中に応じる必要があるのか」など判断が難しい場面も少なくありません。
弁護士に依頼すれば、こうした債権者とのやり取りも代理して対応してもらえるため、精神的な負担を大きく軽減できます。
法的根拠に基づいた説明を弁護士が行うことで、トラブルを避けつつ適切に対応することが可能です。
特に相続人が複数いる場合や、債務の内容が複雑な場合には、専門家の関与がより重要となります。
4.期限を過ぎても相続放棄できる可能性がある
相続放棄には「相続の開始を知ってから3ヶ月以内」という期限がありますが、すべてのケースで厳密にその期間が適用されるとは限りません。
たとえば、被相続人に多額の借金があることを相続後しばらくしてから知った場合や、相続人としての立場を知らなかった場合には、「熟慮期間の起算点」が後ろ倒しになることがあります。
こうした例外的な判断を求めるには、相応の証拠や法律的な主張が必要です。
弁護士に依頼すれば、事情を丁寧に整理し、家庭裁判所に対して適切な説明を行うことが可能となります。
期限を過ぎたからといって諦めず、専門家に相談することで放棄の道が開ける場合もあります。
弁護士に相続放棄を依頼したときの流れ
①法律相談を予約し、弁護士に依頼する
相続放棄を弁護士に依頼する最初のステップは、法律相談の予約です。
多くの法律事務所では電話やWebフォームで予約を受け付けており、希望の日時に相談を行うことが可能です。
相談では、被相続人の財産内容や借金の有無、自身の相続人としての立場などを詳しく伝えます。
その情報をもとに、弁護士が相続放棄の可否や進め方を判断し、正式な依頼に進むかどうかを決定しましょう。
依頼後は、必要書類の収集や家庭裁判所への申述まで一貫して弁護士が対応してくれるため、手続きに不安のある方でも安心して任せることができます。
②弁護士が必要書類を作成し、家庭裁判所へ申述する
弁護士に正式に相続放棄を依頼すると、次のステップとして必要書類の作成が始まります。
申述書をはじめ、戸籍謄本や住民票、被相続人の除籍謄本など、家庭裁判所に提出すべき資料は多岐にわたります。
これらの収集や内容の精査を弁護士が代行してくれるため、手続きに不慣れな方でも安心です。
書類が整い次第、弁護士が家庭裁判所に申述書類一式を提出し、正式な相続放棄の申述が行われます。
期限である「相続開始を知ってから3ヶ月以内」を過ぎないよう、スピーディーかつ正確な対応が求められる場面でも、弁護士のサポートがあれば心強い味方となるでしょう。
③家庭裁判所から相続放棄照会書が返送されてくる
相続放棄の申述書が家庭裁判所に提出されると、後日「相続放棄に関する照会書」が申述人のもとに郵送されます。
この書類は、相続放棄の意思が本人の自由意思によるものかを確認するために送られるもので、記載内容に不備があると申述が却下される可能性もあります。
照会書には、相続の開始を知った時期や財産の状況、放棄の理由などを具体的に記載する欄があり、慎重な対応が必要です。
弁護士に依頼していれば、この記入についてもアドバイスを受けながら進められるため、ミスを防ぐことができます。
裁判所からの通知には速やかに対応し、手続きを円滑に進めることが重要です。
④相続放棄受理通知書を受け取り完了
家庭裁判所に提出した申述書類や照会書の内容に問題がなければ、相続放棄の申述が正式に受理され、「相続放棄受理通知書」が申述人のもとに郵送されます。
この通知書は、相続放棄が法的に認められたことを証明する重要な書類です。
債権者からの請求や他の相続人とのやり取りの中で、放棄済みであることを示す際に役立つため、大切に保管しておく必要があります。
弁護士に依頼している場合は、この通知書の到着確認や以後の対応についても丁寧にサポートしてもらえるため安心です。
これで相続放棄の手続きは完了となり、負債などの義務からも解放されます。
弁護士に相続放棄の手続きを依頼した場合の費用
相続放棄を弁護士に依頼する場合、主にかかる費用は「相談料」「申立書の作成費用」「家庭裁判所への申述手続きの代行費用」などです。
相場としては、依頼内容や地域にもよりますが、5万円〜10万円程度が一般的とされています。
これに加えて、家庭裁判所への申述に必要な収入印紙代(800円)や郵送費などの実費も発生します。
費用は原則として依頼者自身が負担しますが、複数人でまとめて依頼する場合は割引が適用されることもあります。
費用の内訳や追加料金の有無については、事前に明確に説明を受けておくことが、安心して依頼するためのポイントです。
相続放棄を相談する弁護士の選び方
相続放棄の手続きを安心して進めるためには、適切な弁護士選びが重要です。
特に相続問題に精通し、実績のある弁護士を選ぶことで、書類作成の精度や対応スピードが大きく変わってきます。
また、初回相談時に親身になって話を聞いてくれるかどうかも判断材料のひとつです。
弁護士費用の説明が明確であること、メールや電話での対応が丁寧で迅速であることなど、信頼して任せられるかどうかを見極めましょう。
相続放棄には期限があるため、早めに相談し、スムーズに手続きを進められる環境を整えることが大切です。
複雑なケースでは特に、相続専門の弁護士を選ぶことが安心につながります。
相続放棄の手続きを弁護士に依頼する場合に関してよくある質問
相続放棄の手続きを弁護士に依頼する場合によくある質問をご紹介します。
Q.相続放棄の手続きは弁護士と司法書士のどちらに依頼すればよいですか?
相続放棄の手続き自体は、司法書士でも対応できる場合がありますが、法律上のトラブルが想定されるケースや、債権者とのやり取りが発生する可能性がある場合は、弁護士に依頼するのが安心です。
弁護士であれば、相続にまつわる交渉や裁判所とのやり取り、万一の紛争にも対応できる法的権限を持っています。
また、相続人間で意見が対立している場合や、熟慮期間の過ぎた事案など、複雑な事情があるときにも柔軟に対応できます。
単に申述書を提出するだけでなく、法的リスクも含めて総合的なアドバイスを受けたい場合には、弁護士への依頼をおすすめします。
Q.相続放棄の弁護士費用は誰が払うのですか?
相続放棄の弁護士費用は、原則として相続放棄を依頼した本人が支払うことになります。
弁護士との契約は個人単位で行うため、他の相続人が一緒に放棄を進める場合でも、依頼者ごとに費用が発生するのが一般的です。
ただし、家族でまとめて相談するケースでは、同時依頼によって費用を抑えられる場合もあります。
費用の相場は事務所や地域によって異なりますが、相談料・申立書の作成費用・裁判所への申述手続きなどを含め、数万円〜10万円前後が目安とされています。
依頼前に費用の内訳や支払いタイミングをしっかり確認し、納得したうえで契約を進めることが大切です。
相続放棄の手続きを弁護士に依頼する際のまとめ
ここまで、相続放棄の手続きを弁護士に依頼する場合について解説してきました。
重要なポイントをあらためて整理すると、以下の通りです。
- 相続放棄には「3ヶ月以内」という厳格な期限があり、期間を過ぎると放棄が認められないことがある
- 弁護士に依頼することで、申立書類の作成や債権者対応、相続人間のトラブル回避など幅広いサポートが得られる
- ケースによっては相続放棄が認められなかったり、逆に放棄しない方がよいこともあるため、判断には専門知識が必要
相続放棄は一度手続きを完了すると原則として撤回できず、ご自身や家族に大きな影響を及ぼす可能性があります。
不安や疑問を感じたら、一人で抱え込まず、早めに専門家の意見を仰ぐことが大切です。
この記事が、正しい判断と円滑な手続きの一助となれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。