婿養子の相続権とは?実子との違いや遺言書がある場合の対応もご紹介
「婿養子には本当に相続権があるのか?」と疑問を持つ方は少なくありません。結婚により妻の家に入った男性が、どのような法律上の立場になるのか、また実子との扱いに差があるのかは、相続をめぐる場面で大きな関心事です。さらに、遺言書の内容や家庭内の関係性によっては、相続トラブルが生じる可能性もあるため、正確な理解が欠かせません。
本記事では、以下のポイントを中心に解説します。
- 婿養子と実子との相続上の違い
- 遺言書によって婿養子の相続権がどう扱われるか
- 相続できない場合に考えられる具体的なケース
婿養子に関する法律知識を押さえることで、相続時のトラブル回避や円滑な手続きに役立てていただければ幸いです。どうぞ最後までお読みください。
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婿養子とは
婿養子とは、結婚と同時に妻の家に入り、かつ妻の親と養子縁組を結んだ男性を指します。
この場合、夫は戸籍上も妻の親の子として登録され、法律的に親子関係が成立します。婿養子は単に妻の姓を名乗るだけではなく、養親(妻の父母)の子としての地位を持つため、相続権も発生します。
たとえば、養親に実子がいない場合や、家業を継がせたい事情があるときなどに、婿養子を迎えることで血縁以外の男性が家を継ぐ道が開かれます。
また、婿養子となっても実親との関係は法律上、存続するため、実親・養親の双方から相続人として扱われる可能性があるのも特徴です。ただし、婿養子になるには養子縁組届を役所に提出する必要があり、簡易的な手続きで済む一方で、離婚しても養親との法的関係は自動的には消えません。これにより、想定外の相続関係や扶養義務が生じることもあります。
婿入りとの違い
一方で「婿入り」という言葉は、日常的に使われる慣習的な呼び名にすぎません。たとえば、妻の姓を名乗り、妻の実家で生活を共にするようになった男性を「婿入り」と表現することがありますが、この行為自体に法的な効力はありません。婿入りだけでは、相続権は発生しません。
つまり、「婿入り」は社会的な慣習に基づく行動であり、法的には独立した意味を持ちません。これに対し、「婿養子」は明確な法律行為であり、相続や扶養義務など多くの法的効果が伴います。両者は混同されがちですが、法的な扱いや相続権の有無という点で大きく違うため、正確な理解が求められます。
婿養子が関わる相続例
婿養子となると、養親の戸籍に入ることで法律上「子」としての身分を持つことになります。そのため、実の子と同じ立場で養親の遺産を相続する権利を得られます。ただし、養子縁組によっても実の親との親子関係が消えるわけではないため、実親の相続においても法定相続人として扱われます。つまり、婿養子は場合によって養親・実親の両方から遺産を受け継ぐ可能性があるという点が特徴です。このように、関係先が多岐にわたることで、遺産分割の場面では調整が難しくなることがあり、相続手続きでは十分な配慮が求められます。
養親が亡くなった場合
養子縁組が成立していれば、その瞬間から養子は法律上の子として認められます。
その結果、養親が亡くなった場合には実子と同様に法定相続人となり、特別な事情がなければ均等な割合で相続にあずかります。遺言書がある場合はその内容に沿って遺産が分配されますが、婿養子であっても「遺留分」の請求権が保障されているため、最低限の取り分を確保できます。なお、養親に他の子どもがいないケースでは、婿養子がすべての財産を相続することもあり得ます。
実の父親が亡くなった場合
養子になっても、実父との親子関係が続いている限り、相続の権利は消えません。たとえば、実父の死後、他の兄弟姉妹と一緒に遺産を分け合うことになります。仮に、実の両親が離婚や再婚していても、親子としての関係が法的に認められていれば、相続人としての資格に変わりはありません。また、遺言書の内容によっては、実父の相続でも遺留分を請求できる可能性もあります。このように、婿養子であっても実家の遺産相続には関わる権利があるのです。
婿養子の相続におけるメリット
婿養子として養子縁組することで、法律上の親子関係が成立し、相続の面でもさまざまな利点があります。
通常、配偶者の親と法的な関係は存在しませんが、婿養子となれば戸籍上の「子」となり、相続人としての地位を得られます。
さらに、養親からの相続だけでなく、実親との親子関係もそのまま残るため、双方から相続の対象になります。これは婿養子特有のメリットであり、将来的な財産の継承や家業の承継を考える上でも非常に重要な制度といえるでしょう。
義理の親・実親から相続ができる
婿養子となると、養親(妻の父母)との親子関係が新たに生じますが、養子縁組しても実親との親子関係は消滅しません。そのため、婿養子は養親と実親の両方から法定相続人として扱われることになります。このように、法的にふたつの家から相続の可能性がある点は、婿養子という立場の大きな強みです。
法定相続分は実子と同等
養子縁組が成立した場合、養子は法律上の子とされ、養親の実子とまったく同じ扱いを受けます。つまり、婿養子も実子と同様に相続分を主張できるのです。たとえば、養親に実子が2人、婿養子が1人いた場合、法定相続分は3人で均等に分けられるのが原則です。これは、養子だからといって相続の面で不利益を被ることがないことを意味しています。遺産分割協議においても、婿養子は対等な権利を持ち、正当な取り分を受け取ることが可能です。
代襲相続や遺留分の権利も有する
代襲相続とは、相続人となるべき人物が先に亡くなっていた場合、その子どもが代わりに相続権を引き継ぐ制度であり、養子であっても該当します。また、遺留分は被相続人が遺言で特定の人に財産を集中させた場合でも、最低限の取り分を主張できる制度です。婿養子もこの権利を持っているため、万が一遺言などで不公平な扱いを受けた場合でも、法的に取り戻す道が用意されています。
婿養子の相続におけるデメリット
婿養子になることは、相続権の獲得など多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。特に法律上の親子関係が生じることにより、意図しない責任や義務を負うケースもあり得ます。
たとえば、離婚しても養親との縁が自動的には切れないことや、マイナスの財産を相続してしまう可能性、さらに他の相続人との関係悪化などが挙げられます。相続問題は感情や金銭が絡みやすいため、事前にこうした問題を理解し、対策を講じておくことが重要です。
離婚後も養子縁組は自動で終了しない
婿養子となるには、妻の親と養子縁組を結ぶ必要がありますが、この法的な親子関係は、たとえ夫婦が離婚したとしても自動的に解消されることはありません。つまり、結婚関係が終了しても、養親との戸籍上の関係や相続権は残ったままとなります。
これにより、後々の相続で予期せぬ権利や義務を背負う場合や、扶養義務が発生する可能性もあります。養子縁組を解消するには、離縁届の提出など、別途正式な手続きが必要です。感情的な決別ではなく、法的な手続きが伴う点に注意が必要です。
借金などマイナスの財産も引き継ぐ可能性
相続と聞くと、プラスの財産を受け継ぐことをイメージしがちですが、実際には負債や借金といったマイナスの資産も相続対象になります。
婿養子であっても、他の実子と同様に、養親の遺産全体に対して相続人としての立場を持つため、借金や滞納税金なども引き継ぐ可能性があるのです。
特に、遺産の内容を事前に把握できないまま相続手続きに入ると、結果的に思わぬ経済的負担を背負ってしまうこともあります。状況に応じて、相続放棄や限定承認などの制度を活用することが、問題回避のカギとなります。
実子との間で問題が起きる可能性がある
婿養子が相続人となった場合、養親の実子と同等の権利を持つことになりますが、これが実子側との感情的な対立を引き起こすことも少なくありません。
たとえば、長男として家を継ぐと期待されていた実子が、婿養子の存在によって取り分が減るといった不満を抱く可能性があります。また、遺産の分け方や葬儀の主導権を巡ってトラブルが発生することもあります。こうした対立を防ぐには、養親の生前から明確な意思表示と家族間での十分な話し合いを重ねておくことが望まれます。
婿養子でも相続できない場合とは
婿養子になると、法律上の子として相続人になる資格を得ますが、すべてのケースで必ず遺産を相続できるとは限りません。
特定の事情がある場合、相続人としての権利が制限されたり、失われたりすることがあります。
たとえば、遺言の内容によって相続の権利が制限されることもあれば、養子縁組の解消により法律上の親子関係が失われることもあります。また、相続人としてふさわしくない行為、たとえば重大な非行や犯罪などがあれば、裁判によって「廃除」されることもあり得ます。婿養子だからといって、常に養親の遺産を受け取れるわけではない点に注意が必要です。
遺言によって他の人に財産を渡すと指定されているとき
養親が遺言書を作成し、特定の人物に財産を譲るという内容が記されていた場合、その遺言の効力が優先されることになります。
たとえ婿養子であっても、遺言によって他の人に遺産を譲る旨が明確に示されていれば、その通りに財産は分配され、婿養子には財産が渡らない可能性があります。ただし、遺言によって完全に排除された場合でも、法律上保障されている「遺留分」が侵害されていれば、遺留分侵害額の請求が可能です。しかし、相続財産の内容や遺言の書き方によっては、その請求も難しくなることがあるため、注意が必要です。
養子としての関係を終了した場合
養子縁組は法律上の親子関係を築く制度ですが、何らかの理由で当事者が同意すれば「離縁」によって関係を解消できます。婿養子が養親と離縁した場合、法律上の親子関係は消滅するため、当然ながら相続人としての立場も失われます。
これは実子と違い、養子関係は契約によって成り立っている関係であるためです。離縁届を役所に提出し、受理されればその時点で法的なつながりは断たれます。したがって、養子縁組が解消されたあとは、養親の死亡時に相続を受けることはできなくなります。
婿養子に重大な問題行動や刑事事件への関与があった場合
法律では、相続人に著しい不道徳行為がある場合、被相続人の意思や家庭裁判所の判断により相続権を失わせる「相続人の廃除」という制度が設けられています。
たとえば、虐待、重大な侮辱行為、金銭の不正取得などがあった場合に、養親が生前に遺言書で「この者を廃除する」と明記し、さらに家庭裁判所の認定が得られれば、婿養子であっても相続人から外されることになります。廃除が認められると、法定相続人から除外され、遺留分も含め一切の相続権がなくなるため、重大な影響を及ぼす結果となります。
婿養子の相続に関してよくある質問
ここでは、婿養子の相続に関してよくある質問をご紹介します。
婿養子の相続順位は?
婿養子として養親と養子縁組を結んだ場合、その婿養子は法律上、養親の実子と同じく「第一順位の相続人」として扱われます。第一順位の相続人には「子」が該当し、これに婿養子も含まれます。
養親に他の子どもがいない場合、婿養子が単独で相続人となることもあります。また、養子縁組しても、実の親子関係は継続するため、実親が亡くなった際にも相続人として相続に関与できます。結果として、婿養子は実親と養親、双方から相続を受ける資格を持つという、非常に特異な立場にあると言えるでしょう。
婿入りする世帯主は誰になりますか?
「婿入り」とは、一般に夫が妻の家に入って暮らすことを指し、多くの場合は妻の親と同居するスタイルをとります。
しかし、婿入りしたからといって必ずしも夫が世帯主になるとは限りません。世帯主は、住民票上で世帯を代表する人物として登録されている人であり、家の経済的責任者であるとは限らないのが実情です。
婿養子であっても、世帯主の欄には養親(たとえば妻の父)が引き続き記載されているケースも多く、家の名義や家業の実権などもそのまま継続される場合があります。一方で、家の維持や財産管理の都合上、婿養子が新たに世帯主となることも可能です。これはあくまで家族間の合意と役所への届出によって決まるため、法律によって自動的に決まるものではありません。
婿養子の相続についてのまとめ
ここまで、婿養子が相続人としてどのように扱われるのか、実子との違いや遺言書の影響、さらには相続できなくなる具体例について解説してきました。まとめると以下の通りです。
- 婿養子は養親の法定相続人となり、実子と同等の相続分を持つ
- 遺言書の内容次第では、相続権が制限されることもある
- 養子縁組の解消や重大な非行があった場合には、相続できなくなる可能性がある
婿養子の立場は法的にも相続面でも実子と同様に扱われますが、関係の継続や遺言内容によって結果が大きく変わるため、正しい知識をもとに備えることが大切です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。