配偶者が遺産を相続したとき、「相続税がどれだけかかるのか?」「控除制度があると聞いたけど本当に非課税になるのか?」といった疑問を抱える方は少なくありません。特に相続税の仕組みや申告のルールは複雑で、制度を十分に理解していないと控除を受けられず、思わぬ税負担が生じる可能性もあります。
本記事では、配偶者のために設けられた「相続税の配偶者控除」について、以下の点を中心にわかりやすく解説します。
- 配偶者控除の基本的な仕組みと非課税限度額
- 控除を適用するために必要な条件と手続きの流れ
- 二次相続まで見据えた節税対策の考え方
配偶者控除を正しく活用し、相続を進めるための知識として、ぜひ最後までご覧ください。
相続ナビに相続手続きをお任せください。

スマホ・PCで登録完了
役所などに行く必要なし
相続税の配偶者控除とは
「相続税の配偶者控除」とは、配偶者が相続した財産に対して相続税がかからないように一定額まで非課税とする特例制度です。具体的には、配偶者が取得した遺産額が「1億6000万円」か「法定相続分相当額」のいずれか大きい方までは、相続税が課されません。この制度は、配偶者の今後の生活を保障するために設けられており、ほとんどのケースで配偶者の相続に税負担が発生しないよう配慮されています。
ただし、適用には遺産分割協議が成立していることや、相続税の申告を期限内に行うことなどが必要です。仮に遺言や協議が整わず、未分割のままだと控除が適用されない場合もあるため注意が必要です。また、配偶者控除を適用した結果、一次相続で税負担が軽減されたとしても、その分が二次相続(配偶者の死亡時)で課税対象となる点も考慮すべきです。長期的な視点で、相続全体を見通した節税対策が重要になります。
相続時に適用される配偶者控除の概要
配偶者控除とは、一定の金額まで相続税が課されないという特例です。この制度は、残された配偶者の生活保障の観点から設けられており、相続税法に基づいて適用されます。配偶者は相続における保護が厚く、たとえ多額の財産を相続したとしても、その全額がすぐに課税対象となるわけではありません。具体的には、配偶者が取得する財産のうち、法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い金額までは、相続税が非課税とされるのが特徴です。たとえば、被相続人の遺産総額が2億円であっても、配偶者の取得分が1億6,000万円以下であれば相続税はかかりません。
配偶者には最大1億6,000万円まで相続税がかからない特例
配偶者控除における特徴は、「1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額まで非課税」とされる点です。この特例により、たとえ多額の遺産を相続しても、相続税の負担を大幅に軽減できます。たとえば、配偶者と子1人が相続人である場合、法定相続分は2分の1ずつです。このケースで配偶者が相続する財産が1億8,000万円だったとすると、法定相続分は1億円ですが、それを超える1億6,000万円まで非課税となるため、相続税は発生しません。逆に、取得額が2億5,000万円だった場合には、差額の9,000万円に対してのみ課税される形となります。このように、非常に高額な非課税枠が認められるため、多くのケースで配偶者が相続税を実際に納めることはほとんどありません。ただし、特例の適用には申告が必要であり、「申告すれば非課税になる」という点には注意が必要です。申告を忘れると控除は受けられないため、慎重な手続きが求められます。
相続税の軽減が受けられる配偶者控除の適用条件
配偶者控除を適用するためには、控除を受ける配偶者が民法上の正式な婚姻関係にあることが前提です。内縁関係や事実婚ではこの制度の対象外となります。次に、配偶者が実際に財産を取得したことを明らかにする必要があります。つまり、たとえ非課税枠内であっても、相続税の申告をしなければ配偶者控除は適用されません。また、取得財産の金額を証明する資料や遺産分割協議書などの提出も必要です。さらに、遺産分割が完了していない場合は、一部条件付きで控除が認められる「申告期限後3年以内の分割見込書」で、将来的に控除を受けることも可能です。したがって、配偶者控除を確実に受けるためには、形式的な手続きをしっかり行うことが不可欠です。税理士など専門家に相談することで、条件不備による控除適用漏れを防げるでしょう。
配偶者が相続できる割合はどれくらい?
配偶者が相続できる財産の割合は、ほかの相続人の有無や構成によって決まります。子ども、親、兄弟姉妹といった他の相続人がいるかどうかがポイントで、配偶者のみが相続人となるケースは少なく、多くの場合は共同相続となります。
配偶者と子どもがいる場合
被相続人に子どもがいる場合、相続人は「配偶者」と「子ども」です。この場合、配偶者の法定相続分は2分の1、子ども全体で残りの2分の1を分け合うことになります。例えば子どもが2人いれば、それぞれが4分の1ずつを相続する形です。子どもには嫡出子・非嫡出子・養子も含まれるため、注意が必要です。
配偶者と両親がいる場合
被相続人に子どもがいない場合、その親(直系尊属)が相続人となります。この場合、相続人は「配偶者」と「父母(もしくは祖父母)」です。配偶者の法定相続分は3分の2、父母で残りの3分の1を分け合うことになります。仮に父母が健在であれば、それぞれ6分の1ずつを相続する計算です。父母のどちらか一方が亡くなっていれば、もう一方が3分の1全体を取得します。
配偶者と兄弟姉妹がいる場合
この場合、「配偶者」と「兄弟姉妹」が共同相続人となり、配偶者は4分の3、兄弟姉妹全体で残りの4分の1を分けることになります。兄弟姉妹の中にすでに亡くなっている人がいて、その子(甥や姪)がいる場合は、代襲相続が適用されます。なお、兄弟姉妹には「遺留分」が認められていない点も特徴の一つです。
配偶者が遺産を受け取った場合、相続税は発生するのか
配偶者が亡くなった配偶者の遺産を相続した場合でも、必ずしも相続税が発生するとは限りません。特例があり、配偶者が取得する遺産については1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか大きい金額までは、相続税がかからない仕組みになっています。たとえば、遺産が2億円あったとしても、そのうち1億6,000万円までを配偶者が相続すれば、相続税が課されないというわけです。ただし、相続税の申告自体は必要となる場合がありますので、非課税であっても手続きの確認が大切です。
そもそも相続税とはどんな税金か?
相続税とは、亡くなった人(被相続人)の財産を相続や遺贈によって受け取った人に課される税金です。対象となる財産には、預貯金、不動産、有価証券、貴金属などが含まれます。また、生命保険金や死亡退職金の一部も相続税の課税対象になることがあります。特徴的なのは、基礎控除という制度があり、一定の遺産額までは非課税である点です。さらに、配偶者や未成年者、小規模宅地を相続した人などに対しても、各種の控除や軽減措置が設けられています。相続税は、富の偏在を防ぐ目的で導入されている税制度の一つで、相続が発生した際の経済的な負担を公平に分配する役割を担っています。
相続税が決まるまでの仕組みと計算の流れ
相続税は、単に遺産総額に税率をかけるだけでなく、いくつかの段階を経て正確な金額が導き出されます。まずは相続が発生したことを確認し、相続人を確定。その後、遺産に該当する財産をすべて洗い出し、債務や葬式費用を差し引いて正味の遺産額を計算します。そのうえで、基礎控除を差し引き、課税遺産総額を確定する。次に、法定相続分に従って各相続人の持分に応じた相続税額を計算し、最後に税額控除を適用して納付額を決定します。このように、相続税は複数のステップを踏んで最終的な税額が導かれるため、正確な財産把握と適切な控除の適用が重要となります。
1.相続税の対象か判断するために基礎控除を求める
相続税が課税されるかどうかの判断は、まず「基礎控除額」を超えているかで判断されます。基礎控除額の計算式は、3000万円+600万円×法定相続人の数です。たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人の計3人であれば、基礎控除額は4,800万円となります。相続財産の総額がこれを下回る場合は、原則として相続税は発生しません。配偶者がいる場合には「配偶者の税額軽減」との併用により、課税対象となる可能性はさらに低くなります。ただし、相続税の申告義務があるかどうかは、課税額の有無だけでなく、遺産の内容や受け取り方によっても違うため、注意が必要です。
2.課税対象となる遺産の総額を割り出す
課税対象となる遺産とは、被相続人が死亡時に所有していた全財産から、葬式費用や借金などを差し引いた後の金額です。ここには、土地や建物、預貯金、有価証券、貴金属などのほか、死亡保険金や死亡退職金も一定条件のもとで加算されます。財産の評価は、相続発生時の時価が基本となり、不動産の場合は路線価や固定資産税評価額を用いるのが一般的です。一方で、借入金や未払い税金、未払い医療費などの債務もマイナスの財産として控除対象になります。こうして、プラスの財産とマイナスの財産を正確に計算することで、課税対象となる遺産の総額を割り出します。
3.課税遺産総額を、法定相続分ごとに分ける
課税遺産総額が確定したら、次に行うのは「法定相続分」に応じた按分(あんぶん)です。これは、実際の遺産分割の内容にかかわらず、どの程度の相続税が課されるかを計算するためです。例えば、配偶者と子1人の場合、配偶者は1/2、子も1/2という割合になります。この仮想分割に基づいて各人の税額を出したうえで、最終的な実際の取得額と照らし合わせて調整するという流れです。この手法によって、特定の人に多くの遺産が集中した場合には税負担が大きくなるといった、相続税本来の公平性を保つ仕組みになっています。
4.持分ごとに税率を適用して相続税額を算出する
法定相続分で割り振った相続人の持分ごとに、相続税率をかけて税額を求めます。相続税率は超過累進税率で、取得金額が多いほど税率が上がる仕組みです。例えば、取得額が1,000万円以下の場合は税率10%、3,000万円超なら税率は20%、6,000万円超であれば30%となり、55%に達する場合もあります。なお、税率の適用に際しては「速算表」が使われるため、単純に税率をかけるだけでなく、控除額も併せて計算する必要があります。この段階で算出されるのは、控除適用前の「相続税の総額」です。
5.控除を考慮し、実際に納める相続税額を確定する
最後に、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、未成年者控除、障害者控除など、各種の控除を適用して、最終的に納付すべき相続税額を確定します。特に配偶者が取得する財産については、相続税の負担を大きく軽減できるため、早めに制度内容を把握しておくことが重要です。控除後の金額が0円となれば、相続税の納付は不要になりますが、申告義務が残るケースもあるため、税理士など専門家に相談するのが確実です。こうして複数の計算と特例適用を経て、ようやく実際に納める相続税額が確定するのです。
配偶者控除を受けるための相続税申告ガイド|4つの基本手順
一定の条件を満たせば相続税の配偶者控除を受けられます。これは、1億6,000万円または配偶者の法定相続分までの財産について、相続税が非課税になるという制度です。ただし、この控除を適用するためには、相続税の申告が必要です。以下では、その申告手順を4つのステップに分けてわかりやすく解説します。
【ステップ1】申告先である所轄税務署を検索する
相続税の申告は、被相続人(亡くなった方)の死亡時の住所地を管轄する税務署に行います。国税庁の「税務署の所在地・管轄一覧」などを利用すれば、簡単に所轄税務署を調べることが可能です。提出先を間違えると申告の受理が遅れる恐れがあるため、正確に調べておきましょう。
【ステップ2】相続税申告書に必要事項と第5表を記入する
相続税の申告書(第一表)には、相続人の情報や相続財産の内訳などを記載します。配偶者控除に関連するのが**「第5表(配偶者の税額軽減額の計算書)」**です。この表には、配偶者が相続した財産の額や税額軽減の適用額などを記入する必要があります。不備があると控除が適用されない場合もあるため、丁寧に記入しましょう。
【ステップ3】必要書類を準備する
申告には申告書のほか、**戸籍謄本、遺産分割協議書、財産の評価資料(不動産登記事項証明書や預貯金の残高証明など)**が必要です。また、配偶者控除の適用にあたっては、遺産分割が成立していることが条件となるため、遺産分割協議が完了していることを証明する書類も求められます。未分割の場合は、申告期限後3年以内に分割を終える旨を記載した書類を添付し、「申告期限後3年以内分割見込書」などを提出することで、一定の猶予措置を受けることが可能です。
【ステップ4】相続税の申告書類を税務署に提出する
作成した申告書とすべての添付書類をそろえたら、所轄税務署へ提出します。提出方法は、窓口持参または郵送のいずれでも構いません。提出期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内です。期限を過ぎると、配偶者控除の適用が受けられない場合があるため、早めの準備と提出が重要です。
相続税の配偶者控除に関してよくある質問
相続税の配偶者控除に関してよくある質問をご紹介します。
夫が死亡したら妻が全部相続できますか?
法定相続において、配偶者が常に相続人となるのは事実ですが、「すべてを相続できる」とは限りません。たとえば、子どもがいる場合、配偶者の法定相続分は2分の1、子ども全員で残りの2分の1を分け合うのが原則です。つまり、相続人が複数いる場合には、配偶者が自動的に全財産を取得できるわけではなく、他の相続人との遺産分割協議が必要になります。
ただし、「遺言書で全財産を配偶者に相続させる」と明記されていれば、その内容に従うことが原則です。もっとも、他の相続人(特に子どもなど)には「遺留分」という最低限の取り分が法律で保障されているため、遺言内容が完全に反映されない場合もあります。このように、配偶者が全ての財産を相続できるかどうかは、法定相続人の構成や遺言の有無に大きく左右されるのです。
夫が死亡して銀行口座からお金をおろしたら相続税の対象になりますか?
被相続人(亡くなった方)の銀行口座に残っていた預貯金は、原則として相続財産に含まれます。つまり、たとえ配偶者が口座名義人と生活を共にしていたとしても、その預金を引き出した時点で「相続した」と見なされる可能性が高く、相続税の対象となるのが一般的です。
また、相続開始(通常は死亡時)以降に口座から引き出されたお金については、相続税申告時に「すでに受け取った財産」として申告する義務があります。銀行側も相続発生を確認すると口座を凍結する措置をとるため、勝手に引き出すことはトラブルの原因になりかねません。
相続税の配偶者控除についてのまとめ
ここまで、配偶者が遺産を相続する際に知っておきたい「相続税の配偶者控除」について、基本的な仕組みから手続き、将来的な節税対策までを解説しました。要点をまとめると以下の通りです。
- 配偶者控除により、最大1億6,000万円までの相続財産は非課税となる(または法定相続分までは非課税)
- 控除を受けるには相続税の申告が必要で、遺産分割協議の成立や申告期限内の手続きが重要
- 二次相続も視野に入れた遺産分割と対策することで、家族全体の税負担を抑えられる
配偶者控除は大きな節税が期待できる一方、制度を正しく理解していないと本来受けられる控除を逃すこともあります。早めの準備と専門家への相談を活用し、相続を進めていきましょう。最後までお読みいただき、ありがとうございました。