遺産相続は、被相続人(亡くなった方)の財産を相続人が受け継ぐ手続きですが、すべての相続が喜ばしいものとは限りません。
被相続人の財産に多額の負債が含まれている場合や、相続手続きを避けたい事情がある場合など、相続人が相続放棄を選択することもあります。
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産や負債を一切引き継がない意思を表明する手続きです。
本記事では、遺産の相続放棄について以下の点を中心にご紹介します!
- 相続放棄とは
- 相続放棄のメリットデメリット
- 相続放棄の期限
遺産の相続放棄について理解するためにもご参考いただけると幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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相続とは

相続とは、ある人が死亡した際に、その人が所有していた財産(すべての権利や義務)を特定の人が引き継ぐ行為を指します。
具体的には、亡くなった人の財産を配偶者や子供などの近親者が受け取ることです。
この過程で、亡くなった人を「被相続人」、財産を受け取る人を「相続人」と呼びます。
遺産の具体例
遺産には以下のような種類があります。
- 現金や預貯金
- 株式等の有価証券
- 車や貴金属等の動産
- 土地や建物等の不動産
- 借入金等の債務
- 賃借権、特許権、著作権等の権利
相続の方法
相続の方法には主に3つあります。
- 法定相続: 民法で定められた人が決められた割合で財産を受け取る相続方法です。
- 遺言による相続: 被相続人が遺言書により相続の内容を指定する方法です。
遺言書が存在する場合、基本的には遺言書の内容に従って相続が行われます。 - 分割協議による相続: 相続人全員が協議して遺産の分割方法を決定する相続方法です。
遺言書がない場合や相続人全員の合意が必要な場合に利用されます。
遺産をもらえる人
遺産を受け取れるのは以下のいずれかです。
- 法定相続人: 民法で定められた相続人で、通常は亡くなった人の配偶者や子供、親、兄弟姉妹等。
- 受遺者: 遺言書で指定された遺産を受け取る人。
未成年者の相続
未成年者が相続人となる場合、未成年者には代理人が必要です。
通常、親が法定代理人となりますが、親も相続人である場合などは「特別代理人」を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
この代理人が未成年者に代わって遺産分割協議や手続きを行います。
遺産相続は、家族の財産を次の世代に受け継ぐための大切な手続きです。 しかし、その過程には複雑な法律や税制が関わり、多くの人々にとって大きな負担や不安をもたらすことがあります。 特に相続税の計算や申告には、専門的な知識が求められる[…]
相続放棄とは

相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産全てを放棄する手続きを指します。
この手続きを行うことで、被相続人が残した財産だけでなく、借金などの負債も一切引き継がないことが可能です。
相続放棄をすることで、相続人は最初から相続人ではなかったとみなされます。
相続放棄と財産放棄の違い

相続放棄と財産放棄は、どちらも相続に関する重要な選択肢ですが、その内容と手続きには大きな違いがあります。
それぞれの特徴を理解し、状況に応じて適切に選択することが重要です。
相続放棄
相続放棄は、家庭裁判所での手続きを通じて、被相続人の全ての財産および債務を放棄するものです。
相続放棄を行うと、法律上は初めから相続人ではなかったと見なされます。
そのため、相続放棄をした人は、被相続人の財産に関する権利も義務も一切持たないことになります。
財産放棄
財産放棄は、相続人が他の相続人に対して、自身が特定の財産を相続しない意思を伝える行為を指します。
これは法的には「相続分の放棄」とも呼ばれ、遺産分割協議における意見表明に過ぎません。
財産放棄をしても相続人としての地位は維持され、可分債務(分割可能な債務)については相続する義務があります。
| 項目 | 相続放棄 | 財産放棄 |
| 定義 | 被相続人の全ての財産および債務を放棄すること | 他の相続人に対して特定の財産を相続しない意思を伝えること |
| 法的効果 | 初めから相続人でなかったと見なされる | 相続人としての地位は維持される |
| 可分債務の扱い | 相続しない | 相続する |
| 手続き | 家庭裁判所への申述が必要 | 自由な形式で意思表明 |
| 期限 | 相続開始を知った時から3ヶ月以内 | 特にない |
| 撤回 | 一度行うと撤回できない | 遺産分割協議書を締結するまでは撤回可能 |
選択の基準
相続放棄と財産放棄のどちらを選ぶかは、以下の基準に基づいて判断します。
相続放棄を選択すべきケース
- 被相続人の負債が明らかに資産を上回る場合
- 遺産分割協議に参加したくない場合
財産放棄を選択すべきケース
- 特定の財産のみを放棄したい場合
- 相続権を次順位の相続人に移動させたくない場合
相続放棄のメリット、デメリット

相続放棄は、被相続人の全ての財産と債務を放棄する法的手続きであり、多くの状況で有効な選択肢となります。
しかし、そのメリットとデメリットを理解し、慎重に検討することが重要です。
相続放棄のメリット
負債の回避
被相続人が残した負債を一切引き継ぐことがなくなります。
これにより、借金やその他の債務から解放され、経済的リスクを避けることができます。
相続トラブルの回避
遺産分割協議に参加する必要がなくなり、相続に関する親族間のトラブルを回避できます。
これにより、家族関係の悪化を防ぐことができます。
手続きの簡素化
相続放棄をすることで、複雑な遺産分割の手続きや管理業務から解放されます。
家庭裁判所での手続きのみで完了するため、相続手続きが簡素化されます。
相続放棄のデメリット
手続きの煩雑さ
相続放棄には家庭裁判所への申述が必要であり、申述書の作成や必要書類の準備、裁判所への提出など、手続きが煩雑です。
撤回不可能
一度相続放棄を行うと、その決定を撤回することはできません。
慎重な判断が求められ、取り返しのつかない決定となるため、十分な検討が必要です。
次順位相続人への影響
相続放棄をすると、次順位の相続人に相続権が移る可能性があります。
これにより、次順位の相続人に負担をかけることになる場合があります。
相続放棄するべき場合

相続放棄は、被相続人の全ての財産と負債を放棄することで、相続人としての権利と義務を完全に放棄する手続きです。
この手続きは、特定の状況下で非常に有効です。
相続放棄をするべき場合を以下に詳しく解説します。
明らかに負債が多い場合
被相続人が残した負債が資産を大きく上回る場合、相続放棄をすることでこれらの負債を引き継がずに済みます。
例えば、多額の借金や支払い不能な負債がある場合、相続放棄を行うことで、負債を引き継ぐリスクを回避できます。
相続トラブルを避けたい場合
相続に伴う親族間のトラブルを避けたい場合、相続放棄をすることで遺産分割協議から抜けることができます。
家族や親族間で相続に関する意見の対立が予想される場合、相続放棄を選択することで、円滑な関係を維持できます。
相続財産の管理が困難な場合
遺産に不動産や特定の管理が必要な財産が含まれており、その管理が困難な場合も相続放棄を検討するべきです。
遠方に住んでいるため管理が難しい、または管理費用が高額になる場合などが該当します。
次順位の相続人が引き継ぐことが望ましい場合
自分が相続放棄することで、次順位の相続人が遺産を引き継ぐことが望ましい場合もあります。
例えば、他の相続人がより適切に遺産を管理できる場合、相続放棄をすることでその人に相続を任せることができます。
遺産の中に負債が含まれているが、限定承認が適用できない場合
被相続人の財産の中に負債が含まれているが、限定承認(プラスの財産の範囲内で負債を相続する方法)が適用できない場合も相続放棄を選択するべきです。
限定承認は、すべての相続人が同意しなければならないため、全員の同意が得られない場合は相続放棄が有効です。
相続放棄ができない場合

相続放棄は、被相続人のすべての財産および負債を放棄する手続きですが、特定の条件下では相続放棄ができない場合があります。
以下に、相続放棄ができない主なケースを解説します。
熟慮期間を過ぎた場合
相続放棄は、相続の開始を知ったときから3ヵ月以内に行う必要があります。
この期間を「熟慮期間」と呼びます。
熟慮期間を過ぎてしまうと、相続放棄の手続きを行うことができません。
期間内に家庭裁判所へ申述書を提出する必要があります。
単純承認が成立してしまった場合
熟慮期間内であっても、相続人が相続財産の全部または一部を処分(売却や消費など)した場合、単純承認と見なされます。
単純承認が成立すると、相続放棄はできなくなります。
また、相続財産を隠した場合も単純承認と見なされます。
遺産分割協議書に署名・捺印している場合
すでに遺産分割協議書に署名・捺印している場合も、原則として相続放棄はできません。
遺産分割協議が完了した後では、相続放棄を行うことは困難です。
祭祀財産の相続放棄ができない場合
家系図や仏壇、十字架、墓石などの祭祀財産は相続放棄の対象外です。
これらの祭祀財産は、相続放棄をしても引き継ぐ必要があります。
なお、土地は相続放棄可能ですが、相続放棄時に占有している場合は、相続人等に引き渡すまでの間、土地の保存義務があります。
正当な理由がない場合の熟慮期間延長
熟慮期間を過ぎてしまった場合でも、正当な理由があれば家庭裁判所に熟慮期間の延長を申し立てることができます。
しかし、正当な理由がない場合は熟慮期間の延長が認められないため、相続放棄はできません。
遺産の相続放棄については、こちらの記事もお読みください。
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相続放棄の手続き

相続放棄は、被相続人のすべての財産および負債を放棄する手続きであり、家庭裁判所で行われます。
相続放棄を自分で行う場合の手続き方法と注意点について詳しく解説します。
自分で行う場合の手続き
相続放棄をすべきかどうか慎重に検討します。
相続放棄をすると撤回はできないため、財産と負債の状況を正確に把握することが重要です。
費用を確認、用意する
相続放棄にかかる費用は以下の通りです。
- 収入印紙代:800円(申述人1人につき)
- 郵便切手代:約400~500円(裁判所によって異なる)
- 戸籍謄本や住民票除票の取得費用:約3000~4000円
必要書類を用意する
必要書類は以下の通りです。
- 被相続人の死亡記載のある戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
- 相続放棄申述書
申述人が被相続人の配偶者、子供、またはその他の相続人である場合、さらに追加の書類が必要になることがあります。
家庭裁判所に申述する
必要書類を揃えたら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出します。
申述期間は、相続の開始を知った時から3ヵ月以内です。
期間内に手続きを完了させる必要があります。
家庭裁判所からの照会書に回答する
申述後、家庭裁判所から照会書が送られてきます。
照会書には、相続放棄が真意に基づいているか、法定単純承認がないかを確認する内容が含まれています。
回答を記入して返送します。
相続放棄申述受理書を受け取る
無事に相続放棄の申述が受理されると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理書」が送付されます。
これにより、正式に相続放棄が認められます。
相続放棄の手続きの注意点

相続放棄は、被相続人の全ての財産および負債を放棄する手続きですが、その過程には多くの注意点が伴います。
以下に、相続放棄の手続きを進める際の重要なポイントとリスクを解説します。
照会書の回答方法
照会書の質問内容は事案ごとに異なるため、回答には法的な判断が必要になる場合があります。
照会書の回答に迷った場合は、法律の専門家に相談することが推奨されます。
書類の不備と裁判所からの呼び出し
相続放棄申述の書類に不備がある場合、裁判所から呼び出されることがあります。
また、弁護士などの代理人を立てている場合、呼び出されることはほとんどありません。
申述期間の管理
相続放棄は、相続の開始を知った時から3ヵ月以内に行わなければなりません。
この期間を「熟慮期間」と呼びます。
また、資料の収集や手続きを迅速に行わないと、期限を過ぎてしまうリスクがあります。
再申述の難しさ
一度却下されると、再度申述が受理されるためには、それ相応の理由が必要となります。
再申述を検討する場合も、専門家に相談することが重要です。
限定承認の選択
被相続人に債務がある場合、相続放棄以外に「限定承認」という手続きもあります。
これは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する方法です。
また、適切な選択をするためには、相続財産の調査と専門家のアドバイスが必要です。
次順位相続人とのトラブル
相続放棄をすると、次順位の相続人に相続権が移ります。
この際、次順位の相続人に事前に通知しないとトラブルが発生する可能性があります。
相続放棄の事実を次順位の相続人に伝えることが重要です。
管理義務
相続放棄をしても、相続財産を現に占有している場合、その財産を管理する義務があります。
財産の管理を怠ると第三者に迷惑をかけ、責任を問われる可能性があります。
他の相続人が相続放棄しているか確認する方法

相続放棄は、相続人が被相続人のすべての財産および負債を放棄する手続きです。
他の相続人が相続放棄をしているかどうかを確認することは、遺産分割協議や負債の引き継ぎにおいて重要な情報となります。
以下に、相続人が相続放棄しているか確認する方法について解説します。
相続放棄の確認方法
家庭裁判所への照会
相続人や被相続人の利害関係人(例えば債権者)は、家庭裁判所に対して相続放棄の有無を確認する照会を行うことができます。
照会を行う際には、以下の書類が必要となります。
- 被相続人の住民票の除票
- 照会者と被相続人の戸籍謄本(発行から3ヵ月以内)
- 照会者の住民票(本籍地が表示されているもの)
- 委任状(代理人に委任する場合)
- 返信用封筒と切手
- 相続関係図
相続放棄申述受理証明書の取得
相続放棄が認められた場合、家庭裁判所から「相続放棄申述受理証明書」が発行されます。
これにより、正式に相続放棄が行われたことを証明できます。
相続放棄が確認できた証明書は、遺産分割協議や相続税申告の際に重要な資料となります。
全員が相続放棄をしたらどうなる?
次順位の相続人への相続権移行
相続放棄が行われると、その相続人は初めから相続人でなかったものと見なされ、次順位の相続人に相続権が移行します。
また、全ての相続人が相続放棄をすると、相続財産は国庫に帰属します。
しかし、その前に家庭裁判所が選任する相続財産管理人が相続財産を管理・清算します。
相続財産管理人が選任されるまで、相続放棄をした者は自己の財産と同一の注意をもって相続財産を管理する義務があります。
相続放棄の期限と対処法

相続放棄は、被相続人の財産および債務を一切引き継がない手続きですが、その手続きには厳格な期限が定められています。
以下に、相続放棄の期限と、期限が迫っている場合の対処法について詳しく解説します。
相続放棄の期限
相続放棄の手続きは、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に行わなければなりません。
この期間を「熟慮期間」と呼びます。
具体的には、被相続人が亡くなったことを知った日が起算日となります。
例えば、被相続人の死亡日が分かっている場合はその日から3ヶ月ですが、疎遠だった相続人が後から死亡を知った場合は、その知った日が起算日となります。
期限が迫っているときの対処法
相続放棄の期限が迫っている場合には、迅速な対応が必要です。
主な対処法は以下の通りです。
書類のみ提出する
期限内に全ての書類を揃えるのが難しい場合でも、最低限「相続放棄申述書」を家庭裁判所に提出することが重要です。
以下の書類を提出します。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍謄本の附票
- 申述人の戸籍謄本
- 収入印紙
- 連絡用郵便切手
相続放棄申述書の提出が期限内に間に合っていれば、他の書類が後から揃っても問題ありません。
書類提出が完了していれば、家庭裁判所が期限内の申述として受理します。
2. 3ヶ月の熟慮期間伸長の申立を行う
相続財産の調査が遅れている場合など、3ヶ月以内に相続放棄申述書の提出が難しい場合には、熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申し立てることが可能です。
以下の手続きを行います。
- 申立書作成: 裁判所のウェブサイトから、申立書を取得し、その中に申立の目的と根拠を記述します。
- 必要書類: 被相続人の住民票除票または戸籍附票、申立人の戸籍謄本、収入印紙、連絡用郵便切手を添付します。
- 提出先: 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
熟慮期間の延長が認められる理由としては、財産調査が完了していない、新型コロナウイルスの影響などがあります。
相続放棄の期限は非常に厳格であり、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に手続きを行わなければなりません。
期限が迫っている場合でも、相続放棄申述書を先に提出するか、熟慮期間の延長を家庭裁判所に申立てることで対応が可能です。
期限を過ぎると相続放棄ができなくなるため、早めの対応が重要です。
必要に応じて専門家の助言を受けることをお勧めします。
遺産の相続放棄についてのまとめ

ここまで遺産の相続放棄についてお伝えしてきました。
遺産の相続放棄の要点をまとめると以下の通りです。
- 相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産全てを放棄する手続き
- 相続放棄のメリットは、被相続人が残した負債を一切引き継ぐことがなくなる点、デメリットは、一度選択すると取り消せない
- 相続放棄の期限は、相続を知った日から3カ月以内
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

